温暖な気候と豊富な水源に恵まれた静岡県西部の遠州地区。ここでは古くから綿栽培が盛んに行なわれてきました。江戸時代に農業の副業として始めた綿織物は「遠州木綿」として高く評価され、明治以降に紡績工場の操業やトヨタ織機の技術開発、染色の技術研究が進化したことで日本有数の綿織物産地へと発展。戦後には、ガチャッと織るたびに万単位のお金になる「ガチャマン景気」と呼ばれる最盛期を迎えました。


その後、輝かしい時代から一転し、厳しい時代が訪れますが、先人の技術と想いを受け継ぐ職人たちは自社の強みに立ち返り、企画・開発、生産に取り組みました。妥協を許さない職人の個性を感じられる小さな機屋の集まりが、時代に呼応した多種多彩な遠州織物を生み出し、欧州をはじめ、世界中のモードを魅了しています。

遠州には熱気と歓喜に包まれる祭りがたくさんあります。中でも、450年ほど遡る江戸時代が起源と言われている浜松まつりは、長男誕生を祝う「初凧」、勇壮な「凧揚げ合戦」や夜の街を華麗に彩る「御殿屋台の引き回し」が見事です。

そして、遠州織物を纏った祭り人たちは粋で鯔背。
祭りに欠かせない半纏や法被、腹掛けは遠州織物であつらえる男気が産地を支えています。中でも柔道や剣道の道着にも使われている「遠州刺し子」は昔ながらの織機を使い、祭りを支えています。滝本織布ではお客様のご要望を元に、祭りの法被や半纏、腹掛けを特注で製造しています。

刺し子職人のボク・滝本博之と、縫製担当で妻の加代子さん、店長の愛猫ゴロとで始めた「黒猫工房ゴロさんの店」。
ものづくりの楽しさとお客様の喜ぶ姿に魅了され、かつて袢纏が主役だったお店はバッグや小物が並ぶファッショナブルなショップに。
ボクらの13年間をお話します。

浜松の祭り参加者はおよそ10万人。伝統的な袢纏にこだわる人が多く、柔軟に作ることへの難しさを感じた時期がありました。そんな時、娘がお世話になっていた高校の先生のご自宅でゴロと出会ったんです。まだ赤ちゃんで、両手で包み込むようにして連れて帰りました。ひょんなことから、「56」が登場し、ゴロと命名。やがて、「56」の字面が織機に見えてきて、「黒猫が主の店として何でも作ってみよう!」とひらめいて、祭用品の「機屋の袢纏」とは別軸としてスタートしました。

あれから13年、特等席の刺し子の座布団から、店内を見つめています。

遠州刺し子は生地の内側に隙間が多いので吸水性が高く、水を吸っては縮み、乾いては伸び、と扱いが難しい。すごくやんちゃな生地なんです。一方で、隙間が多いからこそ軽い。100g程度でバッグが作れます。たくさんの糸を縒って作られているので丈夫でしなやか。剣道着(袖)にも使われています。優秀な生地だから、無駄にできません。端材で作ったコースターは、グラスに着いた水滴を吸い込み、「テーブルに水が残らない」と大好評。安価で儲けなどないけれど、端材ですし、「お客さんが喜んでくれるなら」って。そういうアイテムも作ったりしています。

「こういうのを作ってほしい」というオーダーがとても多いですね。オーダー品は発注者のものですから、他のお客様に売ることはできないですが、型紙代を安くする代わりに、店でも売らせてもらうことが殆ど。その積み重ねで商品のバリエーションが増えました。1枚の型紙を外注に出して100個売る方法もありますが、お客様と話しながら、1つひとつ作ってきたことは間違っていなかったと思いますね。「仕立て」ができたことが強みと言えるかもしれません。

商品を作る上で大切にしていることは、「品格」です。細かな部分や見えない部分で手を抜いたりして作ったものは品が無い。昔、着物の先生に叩き込まれました。掟破りのオーダーにも意見します。例えば、祭の袢纏は背中に縫い目があり、昔から「背中に目がある」=魔除けの願いが込められています。そういう日本特有の文化も大切にして作りたいですね。

刺し子生地を売るためのサンプルとしてバッグを作ったのが始まりです。そのバッグをお店に置いておいたら、欲しいと言ってもらえて。サンプルがなくなってしまうと困るので、幾つか予備のバッグを作るようになったというわけです。まだ13年ですが、ここまで続けてこられたのは喜んでくれるお客様がいたからですね。だから、商品を渡す時がいちばん楽しみです。

以前、コンビニの駐車場から電話をくれたお客様がいました。この電話、妻の加代子さんが出てくれたんだよね。「コンビニの駐車場車から、『すごく良い!嬉しい!』ってわざわざ電話をかけてくれて。私もすごく嬉しくなって、その時ばかりはちょっと舞いましたもん」(加代子さん)

今後もバッグを軸に、お客様に喜んでいただける遠州刺し子の工房であり続けたいと思っています。

LINEUP
  • 刺し子トートバッグ

    お散歩バッグからお出かけバッグまでサイズに合わせて選べます。裏地は、フレンチポップな赤と青をご用意しました。

  • 刺し子たなぼたバッグ

    皮の持ち手がエレガントなバッグです。お客様のオーダ品から生まれたシリーズ「たなぼた」は、お客様への感謝の気持をブランドネームにしました。

遠州刺し子 工房&ショップ

有限会社滝本織布

代表取締役 瀧本博之

浜松市浜北区宮口1580-2 

TEL./FAX. 053-582-2577